電子探訪記

モンハン好きのおっさんが残すライフログ、読書・ゲームがメイン

【アニメ】紅坂朱音はすべてのクリエイターにとって希望であると同時に、呪いでもある

otapol.jp 9話を観た。
原作を読んでいたが、それでも何とも言えない気持ちに襲われた。
紅坂朱音を見て思った。彼女は最高だ。

紅坂朱音がクリエイターに差し出すモノ

冴えない彼女の育てかた』の紅坂朱音に惹かれる。どうしようもなく魅せられる。
好き嫌いで言えば、別に好きでもないし、どちらかと言えば嫌いの方の部類に入る。
だが、彼女のことを想わずにいられないし、彼女の存在を無視することができない。
目を背けたいのに、どうしても目を離しことができない。 メデューサのように、見たら呪われて石になると分かっているのに、目を背けることができない。

紅坂朱音はおぞましい狂った笑みを浮かべ、言う。
「ああ、いいだろう。お前の望みを叶えてやろう。お前の思い描くイメージを、アイデアを実現してやろう。だが…」
彼女は舌舐めずりする。蛇のように。
「だが、代わりに、お前のすべてを差し出せ。それが代償だ」
彼女は狂気の宿った瞳で見詰めてくる。
その視線に、何よりその言葉に、ぞくりとする。
「お前の妄想を現実化してやるよ。お前が頭の中に抱えているイメージを作品にしてやる。お前に力を与えてやる。お前が表現したいモノを自由に描き出す才能を与えてやる」
多くのクリエイターが渇望することを、彼女は事もなく約束する。
しかし、彼女は言う。全てを捧げろ、と。
文字通り、全身全霊を捧げ、髪の毛一本まで残らないほど燃やし尽くせ、と言う。
全力を投じるのはいい。だが、作品が出来上がった後、自分はどうなる?
「お前の将来など知ったことか」
小馬鹿にしたように、鼻で嗤う。

禁断の果実だった。その果実を手にしたら、その先には破滅しかないのは明白だった。
なのに、抗いがたい誘惑にかられる。
クリエイターなら誰でも想う。自分の命を削ってもいいから、人を感動させる作品を生み出したい。
たった一つでもいい。人の魂を震えさせるような作品を遺したい。
後世に自分が生きたという証を残したい。この世界に自分が存在したという証を刻み付けたい。
その為なら、悪魔に魂を売り払うことさえ厭わない。
そう、才能がないクリエイターほどその想いは強い。
「ああ、オレにもっと才能があったら、多くの人に感動を与えられるのに」
「オレが抱くイメージそのままを描き出すことができたら、これまでのどんな作品より凄い作品ができるのに」
才能のないクリエイターは、有名なクリエイターの作品をみながら、心の中で想う。オレに彼らと同じくらいの才能があれば、と。嫉妬にも似た暗い焔を抱きなら、痛切に想う。才能が、力が欲しいと。
そんなクリエイターにとって、彼女の差し出す果実はあまりに魅惑的だった。
このまま何も生み出せず、日々の糧を得る為だけに、どうしようもないクオリティのモノをただ垂れ流すだけで一生を終えるか。
自分は何も生み出せないのか。自分が生まれてきた意味とはなんだったのか。
焦燥感、絶望感、飢餓感に苛まれる日々。
たった一人でもいい。その人の魂が震えずにはいられない作品を遺したい。たとえ、残りの人生を代償にしても。

頭の片隅で、紅坂朱音が呟く。
「今からでも遅くないぞ。全てを投げ出し、寝食を忘れて、没頭してみろ」
もう何十年も前に諦めた気持ちが、想いが揺り動かされる。
「ああ、まだ間に合う。想像してみろ。お前が作り出したモノをみて、大勢の人が涙を流し、心を震わせるんだ。最高じゃないか⁈」
そうなれば最高だ。そんな経験を味わえるなら、文字通り死んでも構わない。クリエイターなら誰でも想う。
「なぁ、本気になってみせろよ。マジになってみせろよ」
彼女は言い募る。
実力のないクリエイターが最後の拠り所とする言い訳。
自分はまだ本気を出してない。色々と事情があって、本気を出せていないだけだ。
オレだって本気させだせば、できるんだ。
「なぁ、やってみせろよ。お前の本気というやつを、世界中の奴らに見せ付けてやれよ」
紅坂朱音は邪悪な笑みを浮かべながら、禁断の果実を差し出す。
その果実は、全てのクリエイターにとって、希望であると同時に、呪いでもあった。